2026/05/20 09:20
IT業界の出社回帰という働き方は、本当に正しいのか
IT業界で進む出社回帰。その背景にある「空気」の価値と、AI時代の新しい働き方について考察します。人を集めるのではなく、人が力を発揮しやすい仕組みづくりが重要なのかもしれません。
コロナ後、働き方は再び変わり始めている
コロナ禍をきっかけに急速に普及したリモートワークですが、最近は「出社回帰」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
実際、IT業界でも以前ほどフルリモート案件を見かけなくなった印象があります。
最近は、
- 週1〜3日出社
- 初月のみ出社
- ハイブリッド勤務
- 月数回出社
といった条件も増えており、「必要な場面では集まり、それ以外はリモート」という方向へ調整が進んでいるようにも見えます。
この変化は少し不思議でもあります。
一度「出社しなくても仕事は成立する」と経験したはずなのに、なぜ再び出社が求められているのでしょうか。
コロナ禍では、多くの企業が急ごしらえでリモートワークへ移行しました。
- オンライン会議。
- チャット。
- 共同編集。
- 画面共有。
当時は急ごしらえだった環境も、今ではかなり当たり前になりました。
技術的な問題でしょうか。
ネット環境でしょうか。
おそらく違います。
むしろ、仕事そのものではなく、「人と人の関係」の部分に理由があるような気がしています。
出社には「空気」が持つ価値がある
オンライン会議やチャットは便利です。
会議を録画できますし、議事録も残ります。
あとから検索もできます。
冷静に考えると、情報だけなら対面より優れている部分もあります。
それでも実際にチームで仕事をしていると、説明しづらい情報が意外と多いことに気づきます。
例えば、
「今話しかけてもよさそうか」
です。
これ、意外と重要です。
オンラインで、
「わからないことがあったら、いつでも聞いてください」
と言われても、意外と難しいことがあります。
今忙しいのではないか。
会議直後だし後にした方がよいのではないか。
こんなことを聞いてよいのだろうか。
チャット欄を開いて、文章を書いて、やっぱり消した経験がある人もいると思います。
対面では少し違います。
- 席を立ったタイミング。
- 誰かとの会話が終わった瞬間。
- 雑談している空気。
そういう小さな情報から、
「あ、今ならいけそう」
が伝わることがあります。
こうした判断は普段あまり意識しませんが、実際にはかなり高頻度で行っています。
出社環境では、人は思っている以上に多くの情報を空気から受け取っているのかもしれません。
他にもあります。
チャットだけだと、「この人少し怖そうだな」と思っていた人が、実際に会うと意外と話しやすかった。
思ったより優しかった。
こういう経験は少なくないと思います。
- 雑談。
- ランチ。
- 会議前後のちょっとした会話。
こうしたものは単なる雑談ではなく、「この人には聞いても大丈夫そう」を作っていたのかもしれません。
出社には、情報共有だけではない価値があります。
- 空気。
- 安心感。
- 信頼。
こうしたものが、思った以上に仕事を支えている気がします。
ただ、働く前提そのものが変わり始めている
ただ一方で、ここ数年でIT業界の前提そのものも変わり始めています。
特に大きいのはAIです。
以前なら、
- エラー内容を調べる。
- ドキュメントを探す。
- 過去事例を読む。
- コードを書く。
- レビューする。
そうしたことに何時間も使っていた場面があります。
「まず何から調べればいいのかわからない」
「とりあえず検索を繰り返す」
そんな時間も少なくありませんでした。
今は少し違います。
AIに相談すると、調査の入口が見つかる。
コードのたたき台が出る。
レビューの観点も整理される。
もちろん全部正しいわけではありません。
ただ、以前と比べると、個人が出せる成果量は確実に変わり始めています。
そしてもう一つあります。
人材不足です。
IT業界では以前から人材不足が課題と言われています。
ただ、この「人が足りない」という言葉も、少し見方を変えられる気がしています。
本当に人が足りないのでしょうか。
それとも、「働ける人」を自分たちで狭めてしまっているのでしょうか。
優秀な人材は都市部だけにいるわけではありません。
- 育児中の人。
- 介護中の人。
- 地方在住の人。
- AIを活用して高い成果を出す人。
さまざまな人がいます。
今後は「誰を近くに集めるか」より、「必要な人材が参加しやすい環境を作れるか」の方が重要になっていく気もしています。
出社で生まれていた価値は、仕組み化できないのか
ここで考えたいのは、出社そのものではなく、出社が持っていた機能です。
例えばチャットでの質問にも、
- 緊急(止まっている・他工程へ影響あり)
- 今日中
- 相談
- 確認
のような分類があればどうでしょう。
誰に聞けばよいのか。
どれくらい急ぐのか。
どこまで調べたのか。
そうした情報が整理されていれば、「今聞いていいのかな」という迷いは減るかもしれません。
PMの立場なら、
「誰が困っているか」
メンバー側なら、
「今割り込んでいいか」
それぞれ違う不安があります。
今までは、それを空気で補っていました。
ただ、空気は便利ですが、人によって解釈も違います。
空気を読むのが得意な人もいれば苦手な人もいます。
だから今後は、
「空気を再現する」
ではなく、
「空気がやっていた仕事を、システムや仕組みで分解する」
方向もあるのではないかと思います。
出社回帰ではなく、フルリモートを成立させる方法を考えるべきなのかもしれない
個人的には今後の方向として、フルリモートを成立させる方法をもっと考えるべきではないかと思っています。
もちろん、現状では課題があります。
- 相談のしづらさ。
- 認識合わせ。
- 信頼関係づくり。
- チームの空気。
そうしたものを十分に仕組み化できていないため、その不足分を対面で補っている部分もまだ多いのだと思います。
ただ、それは「出社の方が優れている」というより、
まだフルリモートをうまく設計できていない
状態なのだと思います。
AIによって個人の生産性が上がる時代だからこそ、
「人を一か所に集めて空気を読む」よりも、「人が力を発揮しやすい仕組み(システム)を作ること」の方が重要になっていくのではないでしょうか。
そしてそれが実現できたとき、本当に必要な人材が、場所や事情に縛られず参加できる働き方に近づいていくのかもしれません。
それは、単なる働き方の変化ではなく、組織の作り方そのものの変化なのかもしれません。